人工呼吸器離脱(ウィーニング)・抜管について知りたい!!

前回は、「人工呼吸器(侵襲的陽圧換気/IPPV)」について、目的やモードについてでした。今回は、人工呼吸器離脱(ウィーニング)・抜管について勉強していきましょう。
この記事の目次
ウィーニングとは何か
今、人工呼吸器を装着している患者さんがいるんですけど、「ウィーニング」がどうちゃらって先生が言ってたんですよね。
なんのことかさっぱり分からなくて・・・
ウィーニングとは、患者さんが人工呼吸器から離脱して自発呼吸に移行する過程のことをいいます。
抜管することはウィーニングとは言わないので注意しましょう。
ウィーニングを開始する時期は?
人工呼吸管理は原疾患を治療する上で換気を維持するために必要な管理です。しかし、人工呼吸は非生理的な呼吸であり、陽圧換気による身体への影響や、VAPなどの合併症発生の可能性があるなど欠点も存在します。
早まったウィーニングをすると、呼吸筋の疲労などに伴う呼吸状態の悪化により再挿管となる可能性もあります。実は、再挿管された場合の死亡率は30~40%にもなるんです。
しかも再挿管による院内感染性肺炎は8倍の確率で引き起こされ,その死亡率は6~10倍に上昇するとも言われています。逆に慎重すぎるウィーニングも、不必要に人工呼吸管理を長引かせ合併症のリスクを増加させてしまいます。
人工呼吸器は決して身体に対していいものとは言い難いですが、治療の一環として生命を救う機械であることも確かです。ウィーニングは適切な時期に離脱を行う必要があると言えます。
ウィーニング開始の条件
ウィーニングを開始するにあたって、人工呼吸療法を主導する3学会(日本集中治療医学会・日本呼吸療法医学会・日本クリティカルケア看護学会)が人工呼吸器離脱プロトコルを作成しています。
それには
①自発覚醒トライアル(SAT)
②自発呼吸トライアル(SBT)
があります。
自発覚醒トライアル(SAT)とは
自発覚醒トライアル(Spontaneous Awakening Trial: SAT)とは、鎮静薬を中止または減量し、自発的に覚醒が得られるか評価する試験のことをいいます。
麻薬などの鎮痛薬は中止せずに、気管チューブによる苦痛を最小限にすることも考慮します。観察時間は30分から4時間程度を目安とし、鎮静スケール(RASS)を用いて覚醒の程度を評価します。
●SAT開始安全基準
以下の事項に該当しない
- 筋弛緩薬を使用している
- 24時間以内の新たな不整脈や心筋虚血の徴候
- 痙攣、アルコール離脱症状のため鎮静薬を持続投与中
- 頭蓋内圧の上昇
- 医師の判断
●SAT成功基準
①②ともにクリアできた場合を「成功」
①RASS:-1~0
②鎮静薬を中止して30分以上過ぎても次の状態とならない
- 興奮状態
- 持続的な不安状態
- 鎮痛薬を投与しても痛みをコントロールできない
- 頻呼吸(呼吸数≧35回/分、5分間以上)
- SpO2<90%が持続し対応が必要
- 新たな不整脈
この条件を満たして次の段階のSBTに移行します。もし基準が満たせなかった場合は、鎮静薬を再開し、翌日再評価を行います。
自発呼吸トライアル(SBT)とは
自発呼吸トライアル(Spontaneous Breathing Trial :SBT)とは、人工呼吸器の補助がない状態で患者が耐えられるかどうか確認するための試験のことをいいます。
患者が以下のSBT開始基準を満たせば、人工呼吸器設定をCPAPやTピースに変更し、30分から2時間観察します。SBT 成功基準を満たせば抜管を考慮します。
●SBT開始安全基準
①~⑤をすべてクリアした場合「SBT実施可能」
①酸素化が十分である
- FIO2≦0.5かつPEEP≦8cmH2OのもとでSpO2>90%
②血行動態が安定している
- 急性の心筋虚血、重篤な不整脈がない
- 心拍数≦140bpm
- 昇圧薬の使用について少量は許容する(DOA≦5μg/kg/min DOB≦5μg/kg/min、NAD≦0.05μg/kg/min)
③十分な吸気努力がある
- 1回換気量>5ml/kg
- 分時換気量<15L/分
- Rapid shallow breathing index(1分間の呼吸回数/1回換気量L)<105/min/L
- 呼吸性アシドーシスがない(pH>7.25)
④異常呼吸パターンを認めない
- 呼吸補助筋の過剰な使用がない
- シーソー呼吸(奇異性呼吸)がない
⑤全身状態が安定している
- 発熱がない
- 重篤な電解質異常がない
- 重篤な貧血を認めない
- 重篤な体液過剰を認めない
●SBT成功基準
- 呼吸数<30回/分
- 開始前と比べて明らかな低下がない(たとえばSpO2≧94%、PaO2≧70mmHg)
- 心拍数<140bpm、新たな不整脈や心筋虚血の徴候を認めない
- 過度の血圧上昇を認めない
- 呼吸補助筋の過剰な使用がない
- シーソー呼吸(奇異性呼吸)
- 冷汗
- 重度の呼吸困難感、不安感、不穏状態
成功基準を満たせば、次は抜管を考慮します。基準を満たさなかった場合は、人工呼吸や鎮静薬を再開し、原因を検討する必要があります。
一つずつ評価し、段階を踏んでいくことが大事ですね。
ウィーニングの方法は?
ウィーニングの方法としては、3つあります。
IMV(intermittent mandatory ventilation:間欠的強制換気)
IMV法はSIMV法とも言いますが、強制換気の回数を徐々に下げていくという方法です。
強制換気の回数を少なくすることで、自発呼吸がでているかや、自発呼吸でも酸素化が安定するかを評価していきます。
PSV(pressure support ventilation:圧支持法)
プレッシャーサポート法ともいいますが、この方法はプレッシャーサポート(PS)を徐々に低くしていく方法です。
サポートなしでも呼吸できているか確認します。
on-off方式
人工呼吸器の着脱を繰り返し、自発呼吸の時間を徐々に増やす方法です。人工呼吸器を外す前にSPONTモードにして、評価する場合の方が多いです。
人工呼吸器を外す、もしくはTピースにし酸素を吹き流しにして、呼吸状態に変化がないか評価します。
適切な鎮静・鎮痛が必要
SATのプロトコルでは、鎮静・鎮痛のことが述べられています。
鎮静を行うことで得られるメリットとして、不安感の減少、気管チューブなどにから与えられる不快感の減少、自己抜去の防止、酸素消費量・基礎代謝量の低下、人工呼吸との同調性の向上があります。
これらの効果を意図して使っているので、決して眠らせることが目的ではないのです。
では、話を戻して適切に鎮静ができなかった場合、過剰な鎮静をしてしまったら、呼吸抑制や体動も抑制されてしまいます。
そうなると、どうなりますか?
そうなると、人工呼吸器離脱が難しくなりますし、VAPなどの合併症を起こしやすくなります。
逆に鎮静が浅すぎると、興奮状態になって自己抜去の原因になってしまいます。
次は鎮痛についてみていきましょう。
痛みの評価方法は、コミュニケーション可能時は①NRS②VASを使用し、コミュニケーションが困難であれば①フェイススケール②CPOT③BPSがよく用いられています。
痛みを取り除いていないと、せん妄や不眠にもつながります。
早期離床や回復に向けて適切な鎮静・鎮痛を行うことはとても大事なんです。
抜管に向けて
以上のプロセスを辿り、
①上気道閉塞の可能性がないこと
②自力排痰が可能なこと
③FiO2 0.40以下、PEEP 5cmH2O以下、呼吸回数25回以下
の条件を満たしていれば、抜管になります。
抜管前の看護
抜管が可能と判断され、抜管しても再挿管になるケースは、72時間以内に25%という報告があります。これを頭にいれ対応しなければなりません。
まず、なぜ再挿管にあるリスクがあるかというと、チューブを抜去後に上気道の浮腫や狭窄が発生する可能性があるからです。
気管チューブやカフによる気管内への圧迫により血流障害が生じ喉頭浮腫が起こる場合があるのです。浮腫の発生時期には個人差があり、抜管直後から生じる人もいれば、数時間後に生じる人もいます。上気道が閉塞してしまうと、当然呼吸ができなくなってしまうので、再挿管となってしまいます。
これをふまえ、
1.再挿管の準備をする
挿管に必要な物品を準備します。挿管チューブは、現在使用している太さのものと、一つ小さいサイズを準備しましょう。
気道が浮腫っていれば、同じサイズのものでは入らない場合があるので、小さいサイズが必要です。
2.周りの環境を整える
抜管、再挿管のことを考えると、スペースも必要ですし、抜管して酸素化が保てなければ呼吸アシストが必要になります。
スペースを確保したり、アンビューバックがどこにあるかなど物品の一を把握しておきましょう。
3.吸引の準備をしておく
抜管前にしっかり痰や唾液などを吸引しておかないと、気管に流れ込んで誤嚥する可能性があります。
口腔内、気管内をいつでも吸引できる準備が必要です。
4.カフ圧を抜く準備をする
チューブを抜く前に忘れてはいけないのが、カフ圧です。
カフ圧を抜かずに抜管してしまうと、気道を傷つけてしまいます。
5.栄養管理も忘れずに
経管栄養をしている場合も誤嚥のリスクになります。
6時間前までには栄養は止めておきましょう。
抜管後の看護
抜管したあとも、気道浮腫は起こり得るものなので、注意が必要です。
1.呼吸状態のチェックをしっかり
気道浮腫もそうですが、今まで人工呼吸器での補助があり、呼吸をしていたのに、それがなくなる訳です。
酸素化が悪化する可能性もありますので、呼吸状態やバイタルサインには常に注意が必要です。
2.誤嚥に注意
挿管されている間は嚥下機能が低下したり、自己喀痰をしていないため、排痰機能も落ちています。
となると、誤嚥のリスクがあがるので、注意が必要です。
しっかり痰が喀出できているか、嚥下に問題ないか観察しましょう。
まとめ
挿管・抜管時に立ち会うってなかなかないことだと思います。(病院によりますが)私は、どちらも何度か経験したことがありますが、同じ同期でもその場面に立ち会うことがほぼないという場合もあります。
何度か経験していれば、準備することなのではわかるのでスムーズに動けますが、新人の方もそうですし、いざとなったら何をすればいいか分かりませんよね。おそらく、病院ごとにマニュアルがあると思うので、手順は把握しておきましょう。
知識としては今回のことを覚えていたら大丈夫です。人工呼吸器について以下の記事もあるので参考にしてみてください。