食道がんの手術後に人工呼吸器がついているのはなぜ?
今回は「食道がんがほかの手術となぜ違うのか、術後に人工呼吸器がついてくるのはなぜか」をみていきたいと思います。
この記事の目次
食道がんとは?
食道癌といえば、手術時間も約10時間近くかかるかなりの大きな手術です。それゆえ、患者さんにかかる負担は大きいもの。胃や腸のオペとは違い、時間も侵襲も大きい食道がんの手術は術後の看護も重要となります。
術後の看護に重要なのは、食道の構造と手術内容を知り、どのような合併症が起きるのか理解すること。では、まず食道の構造からみていきましょう。
食道の構造は?
出典:Qlife
◆食道は咽頭(喉)と胃をつなぐ管
◆長さ25m
◆食道には、機能的に3つの狭窄部がある。食道の入り口(輪状軟骨の下縁)、気管分岐部の高さ (大動脈との交差)、横隔膜を貫く部分である。
◆食道には漿膜がない。
◆食道は体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間に、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれている
◆口から食べた食べ物を胃に送る働きをもつ
食道癌について知ろう
食道癌の症状などについて簡単に説明していきます。
◆発生は男性に多い
◆酒、喫煙、熱いものや辛いものを好んで食べる人に多く発生する
◆食道がんの90%以上が扁平上皮癌
◆初期は無症状が多い
◆つかえ感、飲み込みにくさ(嚥下困難)、体重減少、胸痛・背部痛、咳、声のかすれ(嗄声)が出現する
◆他の臓器への浸潤や転移が起きやすい
健診や、腹痛精査時の内視鏡検査(胃カメラ)などで発見される自覚症状のない食道がんは、早期がんであることが多く、治癒率は高くなります。しかし、つっかえ感などの症状が出現した時には癌は進行してしまってることがほとんどです。
そして、食道の周辺には、体の中心を通る大きな血管やリンパ節、肺、心臓、胃などの臓器が隣接していることや漿膜がないことで、他の臓器にも転移しやすいという特徴があります。
そのため、進行した食道癌手術の標準的な手術方式では、頸部、胸部、腹部の3領域のリンパ節郭清手術が行われます。
●漿膜がないこと、食道の位置によって転移や浸潤がおこりやすい
●症状が現れたら癌が進行している
●進行がんの手術では手術範囲が大きく侵襲が大きい
食道がんの手術
食道は「頸部食道」「胸部食道」「腹部食道」の大きく3つに分かれ、日本人の食道がんの90%近くは「胸部食道」にできます。そのため、ここでは胸部食道がんの手術について書いていきます。
食道の手術は食道切除、リンパ節郭清、再建(食べ物が通る道を作りなおすこと)で構成されています。
※リンパ節郭清とは、癌が転移しやすい場所にあるリンパ節をとってくること
食道癌の特徴として、胸の中の癌周囲だけではなく、頸部や腹部のリンパ節にも転移しやすいことが知られています。そのため、リンパ節郭清は頸部・胸部・腹部の3領域に及ぶ手術が標準的となっています。手術は開胸・開腹、もしくは胸腔鏡と腹腔鏡で行われます。
手術の流れ
胸は右から開胸する(左開胸では心臓などに邪魔されるため)
↓(片肺換気)
食道と周囲のリンパ腺を切り取る
↓
開腹、胃による再建、リンパ節郭清
↓
頸部切開、リンパ節郭清
↓
胃の先端を首まで引き上げる
↓
吻合、閉創
⇒食道癌のオペは、食道の切除、3領域のリンパ節郭清が必要であるため、①頸部②胸部③腹部の3か所に切開跡がある
出典:http://todai3ge.umin.jp/eso_photo.html
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再建する臓器には、胃や小腸などが使用されますが、胃が第一選択でとなります。 食物の通 過 が生理的であることと、吻合部位が1個所ですむことなどが理由で胃が選択されます。再建する時に通す経路には①胸骨前②胸骨後③後縦郭の3つの経路があり、胸骨後再建が多く選択されています。
出典:http://www.teikyochibasurgery.jp/article/15038135.html
~再建経路~
①胸骨前
長所:縫合不全が起こった場合の処置が容易で安全
短所:再建経路として最長で縫合不全をおこしやすい
美容上の問題がある
②胸骨後
長所:胸骨前に比べて吻合部までの距離が短く、縫合不全の危険が少ない
鎖骨による屈曲がないため食物の通過が比較的スムーズ
短所:心臓への圧迫症状が出現する(不整脈など)
③後縦郭
長所:再建経路が最短
短所:縫合不全が致命的となりやすい
食道がん術後の挿入物
①人工呼吸器
②頸部ドレーン(入っていないこともある)
③胸腔ドレーン
④栄養チューブ(腸瘻)
⑤腹腔ドレーン
⑥膀胱留置カテーテル
⑦点滴
食道がん術後の合併症は?
それをふまえ、術後看護をするにあたって合併症を知り、それを早期発見していくことが必要です。ここでは、食道癌術後の主な合併症についてみていきましょう。
①呼吸器合併症
一般的な手術後の合併症でも肺炎や無気肺が挙げられますが、食道癌の術後は人工呼吸器がついていることがありますよね。これはどういった理由なんでしょうか。
食道がんの手術では、気管の周囲のリンパ節郭清を行うため、気管や気管支の血流低下や、声帯の動きの低下、咳嗽反射が低下が起こります。
それに加え、長時間の全身麻酔と片肺換気による肺虚脱や肺の拡張不全、開胸・開腹術に伴う創痛による呼吸筋運動の抑制のため、うまく痰が排出できないことがあります。また、術操作による反回神経損傷や切断によって、術後容易に反回神経麻痺を引き起こし、声帯の閉鎖困難から誤嚥を併発しやすくなることも挙げられます。
これらの要因が元で肺炎、無気肺、低酸素血症など呼吸器合併症を起こしやすいのが食道がんの手術です。
⇒術後数日間は人工呼吸器での管理で呼吸器合併症を予防する必要がある
看護
●観察項目(呼吸音、呼吸回数、痰の量・性状、咳嗽の有無、発熱の有無、ドレーンの量・性状)
●人工呼吸器の管理 >>人工呼吸器(侵襲的陽圧換気/IPPV)の目的やモード、合併症について。
●痰の量・性状に注意し、排痰援助に努める
●胸腔ドレーンの管理
●口腔ケアをしっかり行う
●疼痛管理(痛みがあると排痰しにくくなるため)
術後は、2~3日目から術中の水分が間質から血管内に戻ってくる現象が起こります。これにより分泌物が増加し、肺うっ血状態となり、肺水腫や胸水が貯留しやすくなります。そして、粘稠な痰の喀出困難は最悪の場合、肺炎を併発することになります。
食道癌がんの手術は呼吸器合併症を起こしやすいということを念頭に看護していきましょう。
②縫合不全
縫合不全とは、手術で縫合された部分の傷口が上手くふさがらず、一部または全体が開いてしまうことをいいます。縫合不全は、術後4~10日までに起こりやすいと言われています。
食道は構造上漿膜がないため、縫合不全を起こすリスクが高いです。また、再建する胃管を頸部まで挙上してくることで吻合部の血流障害を起こしやすいことや、咳嗽や喀痰、嚥下運動により吻合部の安静が保持できにくい状態が縫合不全のリスクを高めます。
さらに、術後の肺合併症による酸素化の不良、栄養状態低下もより縫合不全をおこしやすくする要因です。酸素かの不良や栄養状態の低下は、創部まで酸素・栄養の供給ができないことで創の治癒が遅延することにつながります。
看護
●観察項目(発熱、ドレーンの量・性状、創部の状態、疼痛の増強の有無)
●ドレーンの量・性状に注意する。量が増えたり、色が変わったり以上があればすぐ報告する
●創部の感染徴候(発赤・腫脹・熱感・疼痛)に注意する
③反回神経麻痺
食道がん手術の場合、反回神経のリンパ節に転移を起こしやすいため、この部分の郭清が重要となります。反回神経は細く弱いために、手術操作により障害を受け麻痺することがあります。これを反回神経麻痺といいます。
反回神経が麻痺すると、声のかすれ(嗄声)が出現し、誤嚥が起こりやすくなります。
④乳び胸
乳び胸とは、リンパ管である胸管本管が術中操作により損傷したり、癌の浸潤により切除することによって、リンパ液が胸腔内に多量に漏出し、術後の胸腔ドレーンの血液成分が白濁した状態になることをいいます。
乳び液の流出は肺合併症を併発したり、後の栄養状態低下につながったりする可能性が高い為、ドレーンの排液の性状の観察が重要となります。
●食道は漿膜がなく縫合不全のリスクが高い
●呼吸器合併症を起こしやすい
●手術侵襲が大きい
この3点を覚えておいてください。
まとめ
食道癌のオペは、侵襲が大きく合併症を起こしやすいためICUでの集中管理が必要です。今回の記事で、なぜ食道癌の術後はICU管理なのか、なぜ人工呼吸器をつけているのかが分かってもらえたらいいなと思います。